【12-002】武漢国家バイオ産業基地における中医薬産業の紹介
2012年 3月12日
洪 峰(Hong Feng):
武漢万密斎遺伝子中医薬研究院院長、高級工程師
1986年、ハルビン工業大学、修士号取得(生物工学専攻)
1986年~1997年、中国工程物理研究院バイオテクノロジー研究室に勤務
主にバイオテクノロジー、植物由来薬品の化学分析、効果的な生物由来菌株の培養・増殖技術の生薬発酵抽出物への応用、肝臓がん・糖尿病等における中医薬理論・処方の融合等を研究
2010年、広東智飛生物科技発展有限公司、総経理(取締役社長)に就任
2011年、武漢万密斎遺伝子中医薬研究院を設立、中国武漢光谷生物医薬パークに拠点を設置
研究分野:バイオ医薬、中医薬(民族医薬)
1.
中医薬(中国の伝統医学・薬学の総称)は中華民族の至宝であり、古代中国の四大発明である紙、羅針盤、火薬、印刷術に続く第五の発明とも呼ばれる。中医薬は中国医学や中国科学の特徴を体現するとともに中華民族の優れた文化の重要な構成要素でもあり、数千年にわたる繁栄に欠くことのできない貢献をし、世界の文明の進歩にもプラスの影響を及ぼした。中医薬の数千年間の発展史とは、先人の成果を継承し続け、先進的な科学技術と知識を充分に吸収し、着実に深化し発展してきた歴史であるとともに、社会の発展に適応し、医療の需要を満たしつつ発展を追求してきた歴史でもある。科学技術が高度に発達した現代においては、中国の健康関連産業の急速な成長を促進する上で、中医薬にとっては発展のチャンスと条件が整っている。このため、莫大な潜在力を持ち、急速に成長する中国の中医薬市場は現在、世界の注目を集めている。
中薬(中国伝統医学に基づく医薬品)産業は、バイオ産業の分野で化学薬品に次ぐ第2の産業であり、中医薬に対する国の支援強化に伴い、中薬業界の将来性も明るさを増しつつある。1997年、「衛生改革及び発展に関する中国共産党中央委員会及び国務院の決定」において、「中医薬の近代化実現」という戦略的目標が明示された。このことは、中医薬産業に更なる発展を要求すると同時に、明るい将来性も示している。温家宝総理が2011年12月7日に主催した国務院常務委員会の席で「国家薬品安全計画(2011-2015年)」が審議・承認され、医薬品の安全業務における全体的目標と重点業務が決定された。中国ではすでに第4回中薬資源全体調査がスタートし、全国の中薬資源データベースの構築・整備が積極的に進められており、中国本国の600品種で構成される生体標本バンク、10万種以上で構成されるコア・ジーンバンク、選抜技術を用いて育成した新品種または新品種100種ならびに特殊品種300種、中薬標本50万種以上、追加化学物質1万種以上を確立し、中薬商品標準100本以上を制定する予定である。国家科学技術部は、1999年から現在までに国家中薬現代化科学技術産業基地20ヶ所以上の建設を承認してきた。ここ10年、中国の中薬産業は急速に発展し続けた結果、一定規模の産業システムが基本的に形成され、国民経済と社会の発展において高いアドバンテージと明るい市場見通しを持つ戦略的産業となっている。
中薬は主に自然の植物に由来し、副作用が少ないことから、近年ますます世界的に重視されている。欧米の医薬品企業にも今後重点的に発展する分野として認識され、世界中の大手製薬企業が次々に自然由来薬品研究機関を設立している。世界の植物由来薬品の市場規模はすでに年間3000億米ドルを上回り、年間10-20%の成長を示している。自然由来の栄養製品や医薬品に対する需要は年間70%の伸び率で成長しており、世界では40億人が治療に植物由来薬品を使用している。このことから、世界では現在、植物由来薬品や伝統的医薬品が台頭し、徐々に解禁されつつあるため、医薬品市場全体に影響が及ぶ可能性は高いと言えよう。
2.
武漢光谷生物城
米国には「シリコンバレー」(中国語で「硅谷」)があり、シリコンバレーの中には「バイオバレー」が存在する。一方、中国には「光谷」(オプティカルバレー)があり、オプティカルバレーには「生物城」(武漢光谷生物城:バイオ産業の集積地。中国人による造語)がある。「城」は「谷」よりはるかに大きい。武漢市の東湖ハイテク産業開発区内にある中国武漢光谷生物城(武漢国家バイオ産業基地とも言う。以下、武漢光谷生物城)は、国家発展・改革委員会の承認を受けて建設された、いわゆる「一千億産業」のうち2番目に大きい国家レベルのバイオ産業基地で、バイオ関連製品の研究開発、製造、流通を一体化し、インフラ・産業チェーンが整備され、分業体制が明確で、市場競争力の高い産業集積区である。2020年までに、武漢光谷生物城では健康管理、教育、訓練、研究開発・製造と都市生活を一体化した世界でも一流の現代的なバイオ医薬品パークを構築し、華中地域、ひいては中国全体の医薬品開発の中心を目指す。ここでは、バイオ医薬、ライフサイエンス、生殖技術、医薬品物理産業等、多くの分野を融合させ、かつ、相互に競い合うことで発展し、バイオ医薬領域における奇跡の創造を日々の目標とする。医薬品会社世界最大手のファイザー製薬や中国最大手の国薬集団、医薬品アウトソーシング業界世界大手の薬明康徳(Wuxi AppTec)、アジア最大手の中華集団等、世界の一流企業が先見的・戦略的な視野から、武漢光谷生物城に相継いで拠点を置いた。武漢光谷生物城の中核の一つである武漢光谷生物城バイオ医薬パークでは、さまざまな肌の色をした海外からの来訪者のグループに毎日いくつも遭遇するだろう。彼らは評判を聞き、夢と期待を抱きつつ武漢光谷生物城を訪問するが、期待が裏切られることは決してなく、強い意欲を胸に帰っていく。
3.
武漢万密斎遺伝子中医薬研究院研究センター
明代の医聖、「万密斎先生」の名により命名された「武漢万密斎遺伝子中医薬研究院」(以下、同研究院)は、この大きな発展のチャンス、そして立地や科学技術面でのアドバンテージに狙いを合わせる一方で、明代の頃に「李時珍」と同じく高名で、清代初期に皇帝から医聖の称号を授かった「万密斎」による医学の宝庫に力を借りつつ、長年蓄積してきた中医薬・民族薬分野における独自の優位性を充分に発揮し、伝統的中医薬の精神を継承してきた。また、同研究院は武漢光谷生物城に拠点を置く唯一の中医薬研究機関であり、中医薬、民族薬の分野で長年蓄積してきた開発の経験を充分に生かし、パークにおける産研学及びユーザーとの連携という歴史的使命を果たすことに尽くし、自主革新を主とした開発・革新に重きを置いている。現在、武漢光谷生物城で5億元余りを投資し、中医薬産業の革新と規模化の推進に尽力している。また、同研究院では院士、教授、ドクターを主体とした専門化グループにより特許技術10数件を自主開発しており、病院2000ヶ所以上の臨床製剤の処方の研究開発に協力を行う等、優れた成果をあげている。なかでも、米国テネシー大学栄養学博士の中国系米国人、陳国勲の指導により同研究院の主席研究員が研究を行い、めざましい成果を挙げた「糖・脂質代謝異常による深刻な疾患に対する治療機序及び薬剤に関する研究」プロジェクトは国家科学技術部合作司の審査に合格しており、現在、他にも多数のハイテク・プロジェクトを積極的に申請しているところである。また、同研究院が1.1億元を投じた「膵島移植による糖尿病治療及び生体膜レーザ穿孔技術に関するプロジェクト」では湖北省天門市バイオ医薬パークと協力合意を締結し、まもなく全面的にスタートする。同研究院が自主開発を行う3つの新薬プロジェクトもすでに臨床段階に入り、プロジェクトの2/3まで進んでいる。独自に開発を進める中医用診断装置も基本的に完成し、最終的な試験段階に入っており、生薬品質の判定・分析機器も試作中である。さらに、同研究院は原材料品質の保障のため、GMPに基づく3000ムー余りの中薬栽培拠点を設立した。このように、同研究院は伝統的な中医薬の現代化・産業化を目指し開発・応用を行う専門機関であり、遺伝子工学、バイオ製薬及び生化学的抽出法等の分野における研究・製造拠点及び国家レベルの開放重点実験室として急速に発展しつつある、他に類のない中医薬・民族薬研究所である。
4.
武漢万密斎遺伝子中医薬研究院は、中医薬の研究開発・革新だけでなく、中医薬産業の飛躍的発展の支援にも力を入れている。同研究院が主体となって行われている「武漢光谷生物城中医薬港」協力プロジェクトは現在、協議が進んでいるところである。技術開発、公共検査、投融資、人材、情報を一体化させた、成長性のあるテクノロジー企業のためのハイエンド公共サービス・プラットフォームが構築された暁には、中医薬産業の技術・サービス・体制の革新が促進され、より広く開放され、中医薬産業の飛躍的発展の支援及び専門的なテクノロジー企業の構築の加速に向け、良好な模範を示し、牽引効果をもたらすだろう。これこそ、武漢光谷生物城内のハイライトである。
バイオ産業は「第12次5ヵ年計画」期間、東湖国家自主イノベーション・モデル地区において重点的に支援する4大産業の一つである。また、バイオ医薬はバイオ産業に占めるシェアが最も大きいことから、武漢国家バイオ産業基地で同時期に重点的に支援する分野の一つである。なかでも中薬は、武漢国家バイオ産業基地のバイオ医薬産業でかなりの割合を占めており、すでに馬応龍、健民、聯合薬業、虎泉薬業等の中薬企業18社をコアとする産業クラスターが基本的に構築され、一定のブランド影響力を持つ、特色ある中薬製品を製造している。武漢国家バイオ産業基地の中薬産業の発展を支援するために、同研究院は、武漢光谷生物城内に中薬産業イノベーションのための公共サービス・プラットフォームを構築することを提起した。すなわち、中薬業界の技術革新と刷新に必須となる、カスタマイズされた公共サービスの需要に応えるべく、一定規模で、かつ、共通性のある、産業革新のための公共サービス・プラットフォームの構築、つまり、研究開発から市場までの総合集積プラットフォームの構築を提案した。同プラットフォームでは公共サービスの提供を基礎に、企業ごとに異なるさまざまな要求に対応すべく、中医薬産業革新のための公共サービス体制、すなわち研究開発・産業化・総合サービスを一体化させたワンストップサービスを構築し、産業基地内の中医薬産業の発展に向けた公共サービスの提供という全体向けのモジュールを確立し、中薬産業革新のための公共サービス機能を発揮する。また、イノベーションと産業化に向けた能力の向上とコストダウンのために、川上から川下までの産業チェーン全体に通じる公共サービス機能の構築を目指す。
5.
武漢万密斎遺伝子中医薬研究院の働きで、人々の目は国内市場のみならず世界にも向けられるようになった。世界及びアジア・太平洋における伝統医学ネットワークを利用し、中国科学技術部国際合作司が発起した「アジア・太平洋伝統医学国際産業技術戦略連盟」は、同研究院が一企業として委託され、伝統医学分野における中国内外の関連企業や大学、研究機関と提携して組織された大規模な国際連携である。同連盟は、産業発展の鍵となる共通技術におけるブレイクスルーや産業化によって、アジア・太平洋地域の伝統医学、特に中医薬業界の近代的産業チェーンの構築及び産業全体の飛躍的発展を目指す。
連盟を組織することは、アジア・太平洋地域、特に国内の伝統医学産業の飛躍的な発展に重要な意義を持つ。アジア・太平洋地域の伝統医薬そのものの発展及び国際的な医薬分野における地位の向上、国際市場の開拓に資するだけでなく、資源を共有し、アジア・太平洋地域以外の伝統医学や西洋医学の先進的技術を吸収し、伝統医学分野に共通の重要技術や先端技術の研究に共に力を入れ、伝統医学の近代化・産業化・国際化を目指す上でボトルネックとなっている問題を克服することで、伝統医学産業のより速い振興にも役立つだろう。