【22-045】≪自動運転≫深圳経済特区における自動運転試験に係る法整備について
JST北京事務所 2022年09月21日
1.概要
現在中国では各地で自動運転の走行試験が行われており、筆者が在住する北京市においても、経済開発区や製鉄所跡地(現在は展示場および観光地としてリニューアル。2022年北京冬季オリンピックで使用されたフリースタイルスキーやスノーボードのビッグエアの常設ジャンプ台がある。)等の範囲が明確で限定されたエリア内で自動運転試験が行われており、スマホアプリを使用して自動運転車を呼び出し有料で利用することができる。
そうした中で、深圳市は一般道路上での自動運転試験を行うための管理を規制する中国初の条例を制定・施行した。これにより自動運転車が備えるべき要件や、自動運転試験事業者と深圳市の役割、そして事故が生じた際の責任等を明確にし、業界の高品質で持続可能な発展の促進を目的としている。
中国における今後の自動運転試験を規制・管理するモデルとしての性格も有しているため、当該条例の概要を紹介する。
2.「深圳経済特区インテリジェントコネクテッドビークル管理条例」
(1)概要
2022年6月23日に開催された第7回深圳市人民代表大会常務委員会第10回会合で、「深圳経済特区インテリジェントコネクテッドビークル管理条例[1]」が採択され、同年8月1日に施行された。(全9章64条で構成)
(2)自動運転の程度の定義(第3条)
①条件付き自動運転
・条件付き自動運転とは、自動運転システムが、設計された動作条件下で動的運転タスクを完了できることを意味する。
・自動運転システムが動的運転タスクの引き継ぎ要求を行った場合、運転手は要求に応答して直ちに車両を引き継ぐ必要がある。
②高度な自動運転
・高度な自動運転とは、自動運転システムが、設計された動作条件下ですべての動的運転タスクを完了することができることを意味する。
・特定の環境下で自動運転システムが動的運転タスクの引き継ぎ要求を行った場合、運転手は要求に応答し、直ちに運転を引き継ぐ必要がある。
③完全自動運転
完全自動運転とは、自動運転システムが、運転手が手動操作なしで完了できる道路環境で、すべての動的運転タスクを完了できることを意味する。
(3)自動運転試験の種類
①路上試験(第11条)
・指定された道路区間でインテリジェントコネクテッドビークル(以下「ICV」)により行われる自動運転機能の試験活動をいう。
・路上試験の実施主体は、路上試験の申請書を提出し、路上試験を組織し、対応する責任を負う機関を指す。
②実証試験(第12条)
・指定道路区間で人や物を運ぶ試験的・試験的効果を有するICVの運用をいう。
・実証試験の実施主体は、実証試験の申請書を提出し、実証試験を組織し、対応する責任を負う一つまたは複数の機関の連合体を指す。
(4)深圳市政府の役割
①人民政府
・ICV産業の発展に関する政策の策定、発展環境の最適化、健全で秩序ある発展の促進。(第6条)
・ICVの政府監視プラットフォーム構築の調整、車両・道路・クラウドの統合管理を実現し、交通安全・ネットワーク安全・データ安全を確保。(第7条)
・車両と道路の協調インフラが比較的完備されている行政区を選択し、路上試験や実証試験を当該行政区全域の一般道路に開放し、商業運転のパイロットプログラムの実施を検討することができる。具体的な措置は、区人民政府が策定し市人民政府の承認・公布を経て実施。(第17条)
・市または区の人民政府は、ICVの交通需要を考慮の上、ICVに共通する通信・センシング・コンピューティング施設等の車両と道路の協調インフラの全体計画を策定し、建設を支援。(第40条)
②交通運輸部門
・工業・情報化部門および公安機関の交通管理部門と協力し、ICV路上試験および実証試験の監督・管理を実施しICV道路輸送管理の責任を負う。(第8条)
・工業・情報化部門および公安機関の交通管理部門との共同作業メカニズムを確立し、本条例と国家の関連規定に基づき、深圳市の路上試験と実証試験の具体的な方法を制定・実施しなければならない。(第13条、第39条)
・交通運輸部門と公安機関の交通管理部門は、ICVの通過区間に特別な信号機を設置することができ、ICVが走行する際には、当該信号機の指示に従う。(第41条)
③工業・情報化部門
・ICV製品の地域標準の策定、参入管理に責任を負う。(第8条)
・ICVの共通技術研究開発プラットフォームの設立を組織し、ICT関連のセンサー、コントローラ、アクチュエーター、ビックデータ、クラウドコンピューティング、通信ネントワーク、AI等の技術研究開発・標準化を支援する。(第9条)
・ICV製造企業からの申請に応じて、深圳市の基準を満たすICV製品リストに掲載の上、公表する。当該リストおよび国家自動車製品リストに掲載されていないICV製品を深圳市内で販売や登録してはならない。(第20条)
・技術の成熟度と産業の発展の必要性に基づき、ICV製品の現地標準策定を組織し、市場監督部門による承認を経て公布する。(第21条)
・ICV製品の使用範囲や応用シナリオ等の制限措置を講ずることができる。(第25条)
④市場監督部門
・ICV製品の地域標準の承認と発行、ICV認証・テスト・欠陥製品の回収等の監督管理に責任を負う。(第8条)
⑤公安機関の交通管理部門
・ICVの登録と道路交通の安全管理に責任を負う。(第8条)
・路上試験および実証試験車両の仮ナンバーを発行する。(第14条)
・路上試験の主体が他省で路上試験を行っており、深圳市でも同様の活動を申請する場合、元の申請資料や関連資料を使用して申請し、深圳市による審査を経て、仮運転免許証を取得することが可能。(第14条)
⑥ネットワーク情報部門
・ICVのネットワークセキュリティ、ネットワークデータセキュリティに関連する監督管理に責任を負う。(第8条)
・ICVのネットワークセキュリティインシデントに対する緊急計画の策定を調整する。各部門はそれぞれの責任に従い、緊急計画を策定する。(インシデントの分類・予防・早期警告メカニズム・発生時の安全確保措置・訓練等)(第45条)
⑦その他の関連部門
・その他の関連部門は、それぞれの責任において、ICVの監督管理を実施する。(第8条)
⑧関連部門(具体的な部署名は明示されていない)
・自動運転およびコネクテッド機能を実現するための適当な道路区間・区域・期間を選択し、ICVが路上試験と実証試験を実施できるようにする。(第16条)
・路上試験および実証試験が実施される道路区間・区域・期間を公表の上、対応する標識を設置し、安全上の注意事項およびその他の注意喚起を行う。(第16条)
(5)自動運転試験実施主体の役割
・実証試験にあたり、搭載貨物の所有者・管理者および搭乗員に対して事前に書面で関連するリスクを通知し、必要な安全対策を講じなくてはならない。(第15条)
・路上試験および実証試験の実施にあたり、通常の道路交通を妨害してはならず、道路運送事業に違法に従事してはならず、危険物を運搬してはならない。(第15条)
・ICVを使用して道路運送事業を行う場合、事業者は道路運送事業免許を取得し、車両は道路運送免許を取得しなければならない。(第39条)
・市関連部門に申請の上、車両と道路の協調インフラの構築。(第40条)
(6)ICV関連企業、業界団体の役割等
・有資格のICV関連企業が道路交通シナリオのシミュレーションプラットフォームを構築し、ICV自動運転システムに関するシミュレーションテストと技術検証を実施することを奨励。(第18条)
・ICV関連の業界団体が国際先進標準を参照の上、関連業界を含めて最先端かつ革新的なICV製品グループ標準を策定することを奨励。工業・情報化部門が公表。(第23条)
・保険会社に対して、設計・製造・使用・運用・データおよび計算サービスおよびその他のICV製品に至る一連のリスク全体をカバーする保険商品の開発を奨励。(第10条)
・国家安全保障、公安および個人情報に関連するデータを除き、データ・通信ネットワークおよび車両と道路の協調インフラ等の公開を奨励。(第42条)
・ICV関連企業は、法令に従い主要機器のセキュリティテストの認証を取得し、ICVサイバーセキュリティインシデントの緊急計画を策定し、ネットワークセキュリティ評価および管理メカニズムを確立しなければならない。(第46条)
・ICV関連企業は、データ安全管理システムと個人情報保護計画を策定し、中国の領域内にデータを保存しなければならない。承認なく関連データを海外に送信または転送してはならない。(第47条)
・ICVの研究開発・生産・運営に関連する企業は、公安機関の交通管理部門の同意を得て、ICVに関連する交通違反および交通事故に関する匿名化されたデータを取得することができる。(第49条)
(7)ICVに求められる事項
・ICVは車載機器を政府監視プラットフォームに接続し、監視要件に応じて操作安全関連データをアップロードする機能を備える必要がある。また販売の際には、車載機器を政府規制プラットフォームに接続し、監視要件に従って運行安全に関するデータをアップロードしなければならない。(第26条、第28条)
・自賠責保険及び第三者賠償責任保険に加入していること。(第10条、第28条)
・乗客輸送機能を備えたICVは、搭乗者に対する賠償責任保険も付保されていること。(第10条、第28条)
・その他公安機関の交通管理部門が別途定める事項。(第28条)
・条件付き自動運転および高度な自動運転のICVが自動運転モードで運転している場合、運転手は車両の運転席に座り、車両の動作状況と周囲の環境を監視し、いつでも車両を引き継ぐ準備ができている必要がある。また、自動運転に適さない状態の場合、運転手は直ちに車両の操作を引き取る必要がある。(第35条)
・運転手のいない完全自動運転のICVは、警告灯の点灯・交通を妨げない場所での停車または減速・遠隔操作による操作権限の取得等の運行リスクを軽減する機能を実行できる必要がある。(第35条)
・自動運転モードでの運転時には、外部表示灯を点灯させ、他の車両や歩行者に明確な信号を送ること。(第36条)
・道路輸送事業に従事されるICVは、安全のために車体に目立つ標示を使用すること。(第36条)
・バス旅客輸送の場合は、車内放送も再生されること。(第36条)
・ICV車載機器は、車両の事故または故障の少なくとも90秒前に、位置・動作状態・運転モード・車両内外の監視映像等のデータを記録し、データの継続性と完全性を保持すること。また当該データは最低30日間保存されなくてはならない。(第37条)
(8)交通違反および交通事故の処理
・運転者が搭乗しているICV:運転者が賠償責任を負う。(第53条)
・完全自動運転型ICV:車両の所有者および管理者が責任を負う。運転者に対する違反点数に関する規定は適用されない。(第53条)
・ICVの欠陥による損害が発生した場合:運転者または車両の所有者および管理者は上記賠償の後、製造者または販売者に補償を請求する。(第54条)
以上
1.深圳市第七届人民代表大会常务委员会公告(第五十五号)"深圳经济特区智能网联汽车管理条例"